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ご家族待合室 [古ひつじの詩(川柳・狂歌・詩・散文など)]

「ここでお待ちください」

そう言われて
ベッドはカラカラと手術室に入って行った

ご家族待合室 と書かれた部屋で
私はぽつんと腰を下ろした

リュックの中から携帯を取り出す

娘に何かプレゼントをしようと
いろいろ探したけど
彼女が好みそうなものが見つからなかった

何か手作りしようと思って
ネットでいろいろ探してみたけど
これも見つからなかった

廊下の長椅子に
大きな男の人が腰かけて
鼾をかいて眠っている

規則正しい呼吸が空間に響いている

カラカラとまたベッドが運ばれてきて、
ここで待っているように言われた初老の婦人が
(私も初老かな?)
待合室に入ってきた

何か喋りたそうにしている

私は目を合わさなかった
娘を手術室に送り出した私に
世間話をする余裕はこれっぽっちもない

婦人はあきらめて
バッグの中からごそごそとステンレス製のマグを取り出し、
音を立ててお茶を飲んだ

次にバッグから編みかけのショールのようなものを出してきて、
毛糸玉を引っ張りながら編み始めた

私は携帯を片づけて
本を取り出した

石ノ森 章太郎の日本の歴史

漫画は集中しやすいから
こういうときは便利なんだ

向かいの長椅子に座ったご婦人は
靴を脱いで
椅子に体を横たえ
ぐっすりと眠ってしまった

廊下の男性の鼾と
向かいの婦人の寝息

その中で
漫画はすぐに読めてしまった

私はリュックを抱いて目を閉じた

向かいのご婦人は
途中でマグも編み物も片づけて席を立った


席をはずしている間に
お身内の手術が終わったらどうするんだろう
容態が急変したらどうするんだろう


長い長い2時間が経過した


と、名前を呼ばれた


執刀してくださった医師が二人
待合室に入ってこられた

手術の経緯の説明と
今後の予想される経過の説明があった

肉片も見せてもらった


我が身がしおれていくようだった


カラカラカラと娘のベッドが手術室から出てきた


顔色は悪いし、
笑顔もないが、
平静を装って私を見つめる大きな瞳


戻った病室は
陽が差して明るかった


本と携帯を取ってくれと言われたので
娘に渡した

私のほうが病人のような顔をしているらしく
「帰っていいよ、もう大丈夫やから」
と言われた


また
あたまが空っぽのまま
家まで帰ってきた

陽があるうちに
ふくちんの散歩に行こう




最後まで読んでくださってありがとうございます。m(_ _)m

皆様にはご心配をお掛けしてしまいました。
すみません。

手術は無事に終わりました。
今後は、経過観察が主流です。

明るさだけが取り柄の親娘ですので[たらーっ(汗)]
湿っぽくならずに
前を向いて進んでいきたいと思います。

お気遣い、ありがとうございます。
心から感謝しております。





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